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Cadenceが競合製品のリプレースを狙うSTAの新製品「Tempus」を発表

2013年5月20日、Cadenceは静的タイミング解析ツールの新製品「Tempus」を発表した。今回、日本ケイデンス、テクニカルフィールドオペレーション本部の染葉氏、池田氏の両名に新製品「Tempus」に関する話を聞いた。

プレスリリース文

今回、Cadenceが発表した「Tempus」は、現在Synopsysの「PrimeTime」がデファクトとなっているタイミング・サインオフを狙った新製品で、Cadenceとしてはかなり力の入ったもの。染葉氏によると、同製品は昨年5月に立ち上げられた新たなビジネス・ユニット「Silicon Signoff and Verification」が送り出す最初の製品で、元MagmaのR&Dとして有名なAnirudh Devgan氏が率いる業界きってのR&Dチームによって社内で一から開発された。同ビジネス・ユニットには約300名のエンジニアが所属しており、タイミング、パワー、フィジカル検証、DFMのエリアにフォーカスして製品開発が進められているという。

ラテン語で「時間」を意味する新製品「Tempus」の大きな特徴は2つ。

一つは既存の市場製品に無い高速なSTAの処理能力で、「Massively parallelized computation」と呼ぶ分散処理機能により大規模なデザインをツール内部で分割し、複数CPUによる分散処理とマルチスレッド処理を併用して高速な処理を実現する。同技術は独自のデータ構造により、3ケタに及ぶCPUを用いた分散処理にも対応。競合製品よりも10倍高速なSTA処理が可能となっている。

また、Cadenceの既存のSTA「ETS(Encounter TimingSystem)を含む従来STAでは、タイミングビュー毎にしか分散処理ができなかったが、「Tempus」ではフラットなデザインに対しても自動で分割・分散処理が可能。100ミリオン・インスタンス以上のフラットなデザインでも分散によるSTAを実現できるという。

染葉氏によると、20nmプロセスをターゲットとした先端デザインでは、サインオフ・タイミング・クロージャーに設計工数の40%を費やすというデータもあり、STAの高速化は設計全体の工数を削減する上でインパクトが非常に大きいという話だ。

更に、「Tempus」ではこれまでは時間がかかり特定のクリティカル・パスだけに留まっていたパスベース解析の高速化が実現されており、より広範にパスベース解析が適用可能に。その処理速度は既存製品の10倍に高められ、既存エンジンを超える高精度な解析が実現できるようになった。

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もう一つの大きな特徴はタイミング・クロージャの高速化で、「Tempus」は、STAとしてのタイミング解析だけでなく、タイミング・クロージャに対してもタイミングECO機能として同じエンジンで高速なソリューションを提供している。

具体的には、P&Rツール「EDI(Encounter Digital Implementation System)」と連携してP&Rツールからのフィジカル・ビューを読み込み、配置配線状況を認識した現実的なタイミング解析が可能。実際のタイミング・クロージャーは「EDI」側で処理するが裏で「Tempus」の解析エンジンが走る形で、これまでの手法では多大な時間を要していたP&RツールとSTA間のイタレーションを大幅に削減。大規模デザインでも僅か2-3回のイタレーションでタイミング収束が可能で、その所要時間を従来の10分の1程度に削減することができる。

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また、「Tempus」によるMMMC(マルチ・モード、マルチ・コーナー)解析は、複数のタイミング・ビュー毎にタイミングDBを出力し、最後に個々のタイミングDBをまとめて読み込めるため、無制限にタイミング・ビューを解析可能。これもタイミング・クロージャの工数削減に大きく貢献している。

尚、「Tempus」を用いたタイミング・クロージヤは、他社のP&Rツールでも実現可能だが、「Tempus」は「EDI」を意識して挿入するバッファのコーディネイトまで出力できるので、イタレーション回数を大きく削減する事が可能。また、通常ECOによってセットアップにまで影響を及ぼしてしまうが、「Tempus」と「EDI」の連携では同じエンジンを利用しているので問題ないという。

池田氏によると、実際に「Tempus」を用いてタイミングECOを実行した例では、既存フローで10日を要し全てのビューを処理できなかったデザインを、「Tempus」は僅か1回のイタレーションで全てのビューを処理し、タイミング・バイオレーションを99.5%削減。また別の例では、既存フローで120時間要したデザインを「Tempus」は僅か2回、計12時間で処理し、タイミング・バイオレーションを99.8%削減することが出来たという。

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これまで打倒「PrimeTime」を目指して市場に登場したSTAは幾つかあるが、「PrimeTime」の牙城は強く、どの製品もそのシェアを大きく奪う事は出来なかった。そんな中、今回Cadenceが発表した「Tempus」のパフォーマンスと機能は、競合製品を大きく凌駕するものとなっており、これまで出てきたSTAの中で「PrimeTime」のリプレースを実現する最も可能性が高い製品と言えるだろう。

※画像は全て日本ケイデンス提供のデータ

日本ケイデンス・デザイン・システムズ社

= EDA EXPRESS 菰田 浩 =

(2013/05/22 )

 

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