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SNUG Japan 2019 空飛ぶクルマの実現を目指すカプリンスキー真紀さんの基調講演

※訂正あり 今年も品川プリンスホテルで開催されたSynopsysのプライベートセミナーSNUG Japan 2019(9/13開催)に参加してきた。

SNUG Japan 2019

SNUGではSynopsysのEDAツール、IPのアップデートの入手のほかに、毎年基調講演を楽しみにしている。以前は同業のEDAベンダMentor Graphicsが自社イベントでの基調講演に力を入れていたが、最近はSynopsysが頑張っていて人選がなかなか面白い。ちなみに昨年のSNUG Japanの基調講演は、私が個人的にファンでもある落合陽一氏だった。そんな訳で今年の基調講演は誰なのか少なからず気になっていたが、カプリンスキー真紀さんが講演すると聞いて期待はかなり上昇。結果的にはイベントを通じて一番面白い講演を聴くことができた。カプリンスキー真紀さんは、空飛ぶクルマの実現を目指す日本人の連続起業家だ。

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カプリンスキー真紀さんの略歴は、上記SNUG JapanのWebページほかネット検索すれば色々出てくるので省略するが、イスラエル人の夫と3人の子供を持つ名古屋出身の日本人女性で、現在は空飛ぶクルマ「ASKA」を開発する米シリコンバレーのベンチャーNFT社のCEOを務めている。真紀さんは現在のNFT社を興す前に2つの会社を設立し見事バイアウトに成功している。そう聞くとよほどのバックグラウンドを持っていたのだろうなどと勘ぐってしまいがちだが、驚くことに真紀さんは何も無いゼロの状態から全ての企業をスタートさせたという。実績ゼロ、信頼ゼロ、知名度ゼロ、ネットワークゼロ、最初に興したイスラエルの会社も、次に興した東京の会社も、現在のNFT社も全て異業種でありゼロからのスタートだった。
どうしてそんな事ができるのか? その勇気、モチベーションの源は? その成功の理由は? 誰もが気になるところだと思うが、真紀さん曰く、三つの力があったからだという。

まず一つは「実行力」。ただの実行力ではなくて、真紀さん流に言うと「Yes, Andの実行力」。「Yes, And」というのは物事をポジティブに捉えるマインドで、そうだよねと同意・肯定した上で「更に」を考えるポジティブな姿勢を表す。真紀さんは3つのビジネス全てを一貫して「Yes, And」の精神で実行。自分たちが「Yes, And」を続ければ、パートナーや顧客などビジネスの相手を「Yes, And」にできると考えていて、それがビジネスの推進力の一つだとした。

二つ目は「光を見る、見続ける力」。自分を信じて光を追い続ける。成功と失敗は紙一重、今回がダメでも次はきっと、と信じ続ける事が重要と真紀さんは力説。真紀さんによると、実際に最初にイスラエルで起業したWPO社時代は、2年間収入無しの状況でアルバイトをしながらビジネスを継続。次のIQP社も約4年間は貯金を食い潰しながら事業を継続し続けたという。いずれもトンネルの先の光を見続け、自分を信じ続けたからこそ、その先の成功を手に入れる事ができた訳だ。先述の通り、真紀さんはご主人と創業したこれら2社を成長起業に育て売却する事に成功している。

そして三つ目は「ピボットする力」。企業経営の世界ではしばしば方向転換という意味でピボットという言葉が使われるが、真紀さん流には「柔軟に変化する力」という意味だ。真紀さんは、ピボットする力によって(顧客の声に耳を傾け)製品を育て、東京からシリコンバレーへの拠点変更などを実施(IQP社時代)。真紀さんの「ピボット力」は高校時代のイギリス留学から始まり、イスラエルの国立大学院への編入、商社への就職、その後の3度に渡る起業と、その行動の原動力となっているように感じた。

現在、真紀さんが手掛けているNFT社は、まさにその実行力によりゼロから立ち上げられた会社で、真紀さんは空飛ぶクルマ「ASKA」を実現させてイノベーションを起こす、そして世の中を変えるという光を現在進行形で見ている。「ASKA」はeVTOLと呼ばれる電動の垂直離着陸機の中でも独特なポジションを取る。まず、eVTOLの殆どが飛行機であるのに対し、「ASKA」は飛行機としてもクルマとしても利用できる。これにより文字通りドアツードアの移動が可能。また、20m四方の小型のヘリパッドで離陸が可能であるためeVTOLのための巨大なターミナルは必要ない。飛行機とクルマのハイブリット方式なので乗り換え不要で、飛行場の滑走路を利用した省エネ離陸もできる。(通常の飛行機のように走行して離陸)

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こういった「ASKA」独自のコンセプトは、真紀さんの描くビジネス構想から生まれたもので、NFT社は一般の通勤者をターゲットとした低価格なサブスクリプション式のサービスの提供を計画している。予定では2020年から「ASKA」のテスト飛行を開始し、市場導入は2024年。サービスとしてのコスト比較対象はクルマで、通勤渋滞に苦しむ都会の暮らしを変え、家族との時間を増やすなど人々の生活の質の向上を目指すという。

なお、NFT社は「ASKA」の全てを開発している訳ではなく、「ASKA」の自動運転を実現するプラットフォームのAI部分の開発にそのリソースを集中している。それ以外は外部のパートナーに開発を委託している。ちなみにSynopsysもNFT社のパートナーとして、主にセーフティーやセキュリティの確保に向けて技術協力をしていく予定ということだ。

ASKAの動画:Youtube 

既に作った会社2社を売却し、企業家としては成功を収めているカプリンスキー真紀さん。そんな彼女がなぜ更なる新事業に挑戦するのか? それがなぜ空飛ぶクルマなのか? この2点が個人的に一番興味のあるところだったが、講演を通じてそれらについては概ね理解できた。真紀さんは3歳の時に父親を病気で、5歳の時に二つ年下の妹を交通事故で亡くしている。これが彼女の原点であり、人生という限りある時間を絶対に後悔したくない、自分を信じてやり続ける、という強い気持ちが彼女の中にある。また、明確に口にはしていなかったが、真紀さんの語る数々のエピソードには家族に対する強い愛情も感じられた。空飛ぶクルマ「ASKA」のプロジェクトは「家族の時間を増やしたい」、「家族の価値を大切にする世界を残したい」という彼女の想いを具現化するものなのである。

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基調講演の大半を通じて語られたカプリンスキー真紀さんの生き様は、それを聴くだけで何か勇気付けられる感じがした。きっと多くの聴講者がそう感じた事だろう。正直それだけで充分意義のある講演だったが、ありがたい事に真紀さんは聴講者に対して自分の考える「未来を変えるためのアクション」の幾つかを提示してくれた。これらは日常の仕事であったり、何かの取り組みや挑戦などにおいても役に立つのではないかと思ったので、この場で紹介しておこう。

1. 失敗を気にしない

日本では失敗するとやり直しがきかない等と言われているが、そんなことは気にしなければいい。特に大企業に所属しているエンジニアは実績、知名度、信頼など恵まれた環境にある。自分のコアとなるものを維持してピボットしていけばいい。Yes, Andを起こしていけばいい。自分のストーリーを信じ切って進むのは大事だと思う。

2. 石橋を直しながら渡る

石橋を叩き過ぎても得るものはない。もし叩いて壊れたら治す、作り直す。Yes, Andのマインドでピボットする。前に進みながら柔軟に変化していく事が重要。

3. 女性の力

今の日本経済には揚力が足りていない。多様性が足りないし女性が足りない。日本の女性は非常に優秀なのに、特にテクノロジーの世界では女性リーダーの数が少ない。男女の雇用格差の解消によりGDP10%以上伸びるという試算もある。女性は日本の伸びしろとも言えるので、もっと女性リーダーを増やして社会全体をピボットしていくべき。

4. 挑戦するマインド

シリコンバレーにあって日本では感じられないないもの、それは失敗を恐れずに挑戦する気持ち。直感的に良さそうだと思ったら挑戦するべき。失敗を恐れて行動に移さないことが最終的には最大の失敗になる。

なお、カプリンスキー真紀さんは、最後に有名なエジソンの言葉を紹介して講演を締めくくった。

「私達の最大の弱点は諦める事、成功するための最も確実な方法は、もう一度試そうとする事。」

日本シノプシス様、非常に素晴らしい基調講演の企画をありがとうございました。来年も期待しています。

日本シノプシス合同会社
 

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