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Verify2012基調講演:分野を越境することが、生き残りの条件 ハード・ソフト・サービスのIT融合へ、中央大学竹内健教授

2012年9月28日、今回で13回目の開催となるLSI検証技術セミナー「Verify 2012」が新横浜のホテルで開催された。

Verify2012公式ページ

ここでは、同セミナーで行われた中央大学理工学部 電気電子情報通信工学科 竹内健教授の基調講演「分野を越境することが、生き残りの条件 ハード・ソフト・サービスのIT融合へ」の内容を紹介する。

竹内教授については当サイトでもその研究活動を何度か紹介しているが、同氏はフラッシュメモリ関連の研究で世界の先頭に立つ人物。今年1月に発売された著書「世界で勝負する仕事術」は、世間でも話題を集め既に約18000部を販売、一時期Amazonの総合ランキングで2位にランクされていた。

今回、竹内教授がセミナー参加者の大半を占めるハードウェア・エンジニアに語ってくれたのは、ご自身のこれまでの個人的な経験に基づいた提言で、「越境」をキーワードとしたその内容は非常に興味深いものだった。

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※竹内教授講演の様子

■水平分業ではなく水平統合が現実

まず始めに竹内教授が指摘したのは、日本が失敗したと言われ、ルネサスエレクトロニクスをはじめ、今後の業界各社の動きが注目されているシステムLSIビジネスについて。システムLSIビジネスは、1990年台後半のDRAM敗北後グローバルな「水平分業」が進み、それに日本企業が乗り遅れダメになったと言われているが、現在振り返って考えると決してそうとは言えないと竹内教授。

「水平分業はある種の幻想。」であり、先端LSI製品を開発する上で製造側と設計側との作り込みはある程度必要。実際にファウンドリとファブレスはがっちりとチームで製品開発を進めており、互いに人材の行き来もあるなど実は協調しながら「水平統合」と呼べる体制を築いているという。また、AppleがLSI設計技術を持つPA Semi、Anobit等の企業を買収した例を見ても、ビジネスの世界では単純な水平分業ではなく「水平統合」が現実となっており、事業主体としては分業に見えていても技術面では統合してやっていく体制が必要だとした。


■生き残るには「越境」

「水平統合」の話の延長で竹内教授は、自身が東芝時代に深く関わってきたフラッシュメモリの成功の要因について言及した。例えばスマートメディアの時代は単純に中にフラッシュメモリが入っているだけであったが、その後エラー訂正等を行うコントローラーが載るようになり、コントローラーの技術の良し悪しがメモリの性能を左右するようになった。たかがメモリであるが、コントローラーを含め全体をうまく統合=最適化することで性能向上を実現し、ビジネスを成功させてきたという。

竹内教授は、フラッシュメモリのビジネスがこれからも生き残るためには、他分野への「越境」が必要だと考えており、実際にメモリだけでなく、他分野であるOS、アプリケーションも含めたシステムの最適化を目指し研究を継続中。ビジネスの世界も同様で、イスラエルなどではECCを始めとする制御技術を元にしたベンチャー起業が乱立しているという。


■コントローラ・ソフトの開発における2つの「越境」例

竹内教授が自身の「越境例」の一つとして紹介してくれたのが、SCM(ストレージ・クラス・メモリ)のコントローラ・ソフトの開発事例。

竹内教授は、iPhone4SとiPhone5のフラッシュメモリの搭載量が変わらない事から見ても、スマート・フォン市場だけを見ていたら今後メモリのビジネスは無いと明言。これからは、ビッグデータを活用するクラウド基盤を支えるライフ・ストレージ市場にビジネス・チャンスがあるとし、自身も同分野を見据えた研究を行なっている。

既に高速化、低電力化を目的にデータ・センターにおけるフラッシュメモリ(SSD)の利用が進みつつあるが、単にフラッシュメモリを使うだけではなく、ここでもやはりメモリを使いこなす技術が重要になってくるという。例えば、扱うデーターの属性、アクセスのパターンに応じてどうメモリ階層を構成するか、アクセス頻度の高いデータをどう上位階層に移動するかなど、対象とするアプリケーションに応じたソフト(ミドルウェア)の技術が必要となる。竹内教授の言葉を借りると「単にハードだけ作っているだけではダメ」で、課題は解決出来ないという。

そこで竹内教授はこの先5-10年先を考えたライフ・ストレージへのソリューションとして、SCM(ストレージ・クラス・メモリ)に注目し、金融アプリケーションを対象に高速化、低電力化、低コスト化を実現するコントローラのアルゴリズムを開発した。同件に関する詳細は当サイトの別記事を参照頂ければと思うが、そのコントローラのアルゴリズムを開発するにあたり、竹内教授のチームはまさに「越境」により異分野の金融向けアプリケーションについてのデータ収集・分析を行い、更にもう一つの「越境」により、これまで用いた事のないESL手法によってアルゴリズムの評価を実現した。

実際の評価データによると、開発したコントローラ・アルゴリスムを用いたSCMでは、フラッシュメモリに比べて、電力1/10、性能11倍、書き換え耐性7倍を実現。データセンターの大幅なコスト削減に寄与できるという。

ちなみに、竹内研究室が利用したESL手法とは、SystemCベースの仮想ハードウェア環境によるシミュレーションで、EDAツールはSynopsys社の「Platform Architect」を使用。SystemCモデルの開発などエッチ・ディー・ラボ社が全面的に協力したという話だ。

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※画像は竹内教授の講演データ


■カギは「ソフト、ハード、サービスの融合」

竹内教授は講演の最後に、メモリ関連ビジネスの視点から今後は「ハードとソフト・サービスの融合・協調」がカギであるとし、自身の研究活動もそうであるように、アプリケーションに応じて最適化されたシステムを作り上げるには、ハードだけでも、ソフトだけでもダメで更にアプリケーション側、すなわちサービス事業者との連携・融合も重要であると指摘。サービス事業者がチップベンダと組むというある種の統合がこれから益々進むはずとし、現に欧米ではフラッシュメモリ周辺の企業買収が活発であったり、多様な企業が業界を飛び越えてフラッシュメモリ・サミットに参加している点等を挙げた。

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※画像は竹内教授の講演データ

また、この「ハードとソフト・サービスの融合」は、企業のみならず個人レベルでも重要であるとし、メモリ・ビジネスに限らず日本にはハードの強さを活かせる「ハードを使いこなすソフトの技術が重要である」と説き、もはや異業種連携を超えて、異業種の中に入って行かなければならない時代であると語り講演を締めくくった。

※竹内教授は、10/11経済産業省主催の「IT融合シンポジウム2012」においても講演を行う予定。

竹内研究室

 

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