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オートモーティブ開発も「Shift Left」を強調するSynopsys

2019年2月27日、Synopsysは品川でオートモーティブ開発ソリューション・セミナー2019を開催し200名近い参加者を集めた。

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ここでは同セミナーのキーノート「Shift Left -現状の車載システム開発プロセスからの脱却」の内容についてレポートする。
講演者はSynopsys米国本社のDr. Burkhard Huhnke氏(VP Automotive Corporate Marketing Group)である。

Burkhard Huhnke氏は、元VolkswagenのシニアVPであり、EVプラットフォームの開発責任者を務めていた人物。Huhnke氏がSynopsysに移籍したのは昨年の話で、今日の車載システム開発については当然ながら深く精通している。そんなHuhnke氏が語ったのは、言うなれば「自動運転時代に向けた車載システム開発のあるべき姿」であり、幾つかのキーワードを絡めながら開発手法/プロセスの変革を訴えた。

Huhnke氏が挙げたキーワードでまず目を引いたのは「V-Sample」という言葉。これはプロセッサ・モデルを用いたバーチャルなECUサンプルを表すもので、もはや「V-Sample」無くして各種ECUの開発は困難であるとHuhnke氏。Aサンプル、Bサンプル、Cサンプルと徐々に100%の機能を実装していくこれまでの開発プロセスでは、開発の遅れが開発後段の危機的なエラーカーブを生む状況となっており、コード量が爆発的に増加し益々複雑化する今日のECUシステムにおいては、Aサンプルに到達することもままならない現実があるという。Synopsysが車載システム開発向けに提供するソリューションの一つである「Virtual ECU」を「V-Sample」として利用し、開発初期段階からソフトウェアの実装を進めることで現状の課題は解決できるとHuhnke氏は主張する。

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それから印象に残ったのが「自動車業界Top15社のうち12社が利用」というプレゼン資料上のキャッチコピー。これはSynopsysのソフトウェア開発向けソリューションの採用実績のPRだが、本来必ずしも車載システムを主なターゲットとしていない、ソフトウェアの脆弱性解析ツール「BLACK DUCK」、静的コード解析ツール「COVERITY」、アプリケーションのセキュリティ・テストツール「Seeker」といったツールが既に多数の自動車関連会社でソフトウェア開発用に活用されているという話だった。Huhnke氏はこの実績を取り上げながら、ソフトウェア開発の前倒しだけではなく、ソフトウェアの品質および信頼性向上に向けて開発プロセスそのものを改善する必要があると指摘。コードに潜むバグや脆弱性を早期に発見・修正するだけでなく、予防することも重要であると付け加えた。

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もう一つ、Huhnke氏が講演を通じて幾度となく口にしたのが「IP」というキーワード。プロセッサに限らずSynopsysは車載システム開発に使える様々なIPを提供しているが、車載システム特有の機能安全の話が出てくるとプロセッサ「ARC」の存在感が大きくなる。Huhnke氏は講演の中でIPの活用によるSoC開発の効率化を唱えると同時に、機能安全に対応する同社のソリューションを紹介。自動運転に向けて最も厳しい安全レベル「ASIL D」への準拠が重要度を増しているが、それに対してSynopsysは「ARC EM Safety Islands」、「ARC EV6x」といった「ASIL D Ready」プロセッサ製品の提供で対応している。Huhnke氏は、これらIPの活用も含めこれからの車載システム開発においては、これまで慣例の無かったOEMとIPベンダの会話も重要であると指摘。それは、システムのアーキテクチャを考える開発初期段階でチップやIPの考慮が必要不可欠であるという主張からだ。


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なお、ここまで挙げたキーワードも含め、Huhnke氏が講演の中で最も強調したのは「Shift Left」というキーワードで、「Shift Left」においては、ハードウェア開発とソフトウェア開発をシンクロさせる事がとても重要であると語っていた。「Shift Left」には大きく下記3つの意味が含まれている。

 ・ソフトウェア開発時期の前倒し
 ・ソフトウェア開発の短期化
 ・ハードウェア開発の短期化

既にお分かりの通り、ソフトウェアの開発時期を前倒しするためのソリューションとしては、「Virtualizer」をはじめとする仮想プロトタイピング向けのツール。ソフトウェア開発の短期化向けには講演でも紹介さた各種ソフトウェア開発向けツール、そしてハードウェア開発の短期化向けには、「ARCプロセッサ」製品をはじめとする各種設計及び検証IPや機能安全向けのシミュレーション・ツール、という形でSynopsysはHuhnke氏が強調した「Shift Left」のためのソリューションを完備している。見方によっては今回の講演は「Synopsysの製品を使えば車載システム開発のあるべき姿に近づけます」という宣伝と取れるが、車載システム開発の最前線で活躍していたHuhnke氏の指摘一つ一つは現場目線の現実的なもので説得力が感じられた。Huhnke氏が紹介した「Shift Left」を実現するSynopsysの各種製品は、いずれも競合には無いまたは先行しているソリューションで、有望な車載システム開発市場におけるSynopsysの差別化ソリューションとして今後強さを増して行きそうだ。

日本シノプシス合同会社

= EDA EXPRESS 菰田 浩 =

(2019/03/25 )

 

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