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垂直統合型製品開発 "シリコンの新たな可能性" Magma Design Automaton

垂直統合型製品開発 "シリコンの新たな可能性"
Phil Bishop
Corporate Vice President of Worldwide Marketing
Magma Design Automation


I. はじめに

いずれのテクノロジ製品市場も、最終ユーザに対して差別化されたメリットと様々な選択肢を提供すべく発展しています。この発展には、顧客の使用用途を管理し、製品のサプライチェーンに必要な要素を加える垂直型の統合期間が通常伴います。パーソナル・コンピュータ市場の歴史、最近ではApple社やGoogle社の動向を見てみると、ソフトウェア、シリコン、サービス、場合によっては特許を組み合わせて、顧客の満足度を図るという動きにあることがわかります。このレベルの垂直型統合は、通常、市場が顧客の使用用途を管理し、急成長期間へと突入することを表しています。さらに、この成長期間には固有の課題が発生し、新興のシリコン・プロバイダやそのパートナにとってチャンスが拡大します。今日のテクノロジ市場では、最終製品の垂直統合とは、複雑なアナログ、デジタル、ミックスドシグナル・テクノロジのシリコン統合の増加を意味しています。このようなテクノロジ市場での成功は、このかつてないほど増加しているシリコン統合課題に対して完全に統合されたソリューションを提供できる設計ソフトウェア・サプライヤにとって大きなメリットとなります。


II. 垂直統合とテクノロジ市場の革新

テクノロジ市場改革初期、サプライチェーンを構築する包括的な企業が登場するまでは、その市場における有力企業が必然的に垂直型の統合を試みます。この垂直統合型モデルは、1社であらゆる製品開発、製品統合を行います。垂直統合型モデルでは、顧客の使用用途をさらに統一し、開発期間を短縮し、複雑な製品開発を調整することが可能です。一方、垂直統合型モデルは、サプライチェーンの全工程が競合するわけではないため、コストが高くなるという欠点があります。さらに垂直統合型モデルは、垂直統合型企業が最終製品に対する投資を軽視すると製品の多様化を損なうという危険性があります。テクノロジ市場がさらに安定化すると、特殊な統合を図る期間に入ります。この段階では、市場参入者は顧客の要求を理解し、高度に最適化された部品を使用して最終製品を製造するといった、特殊な機能を提供するようになります。最終的に、市場は成熟し、仮想的統合と呼ばれる段階に到達します。この段階に至って、調整がとれたサプライチェーンを緊密に管理し、製品の多様性とコストのトレードオフが可能な企業が登場することになります。 

歴史的な一例として、PC市場を表している図1をご覧下さい。PCは1970年代後半頃に登場し、必要に応じて急速に垂直統合がなされました。Tandy TRS80、Commodore PET、Apple IIはいずれも、主としてこれらのPCメーカによって製造、統合されたハードウェアやソフトウェアを内蔵していました。PC市場におけるこの垂直統合時代に続き、高度成長の時期が到来しました。1980年代に入ると、特殊な統合が具現化してきます。IBM社のPCは、特殊な統合を行った良い一例です。Microsoft社とIntel社の連携 (Wintel)により、IBM社は全体的なPCデザイン以外の側面で特殊化を行いました。最終的に、1990年代にPC市場は今日私たちが一般的に採用している手法である仮想的統合へと移行し、ほとんどのPCメーカがPCのハードウェアとソフトウェアを組み立てる特殊なプロバイダで構成された、緊密に調整されたサプライチェーンを管理しています。Dell社のように、多くの場合、サプライチェーンに属するプロバイダは、実際にはPCメーカ内でハードウェアの組み立て、統合、テストを行っています。

新しい市場における垂直統合アプローチのもうひとつの例として、モバイル分野のスマートフォンやタブレット市場を見てみましょう。より垂直型アプローチを取っているApple社やResearch in Motion社(以下、「RIM社」)を例に、この急速に成長している市場の異なるアプローチを例に挙げてみます。Apple社の最新のiPhone 4は、ARM社とImagination Technologies社のIPを使用しています。しかし、アプリケーション・プロセッサ・チップの統合や設計、ソフトウェアOSの開発や統合はApple社で行っています。RIM社は 独自のソフトウェアOSを提供していますが、通常Texas Instruments社のようなサプライヤが提供するアプリケーション・プロセッサ・チップを使用しています。このようなモバイル市場では顧客の使用用途や要求が安定するまで、垂直型の統合が好ましいアプローチであると考えられます。しかし、最近ではHisilicon Technology社やMotorola Mobility社から特殊統合された携帯プレイヤが登場しており、良い例となっています。両社は、Google社のソフトウェアやQualcomm社やNVIDIA社のアプリケーション・プロセッサと、スマートフォンやタブレットのシステム仕様を合わせ、統合しています。先日のGoogle社とMotorola Mobility社の合併により、モバイル分野において、両社がさらに垂直型アプローチを推進するかどうかは興味深いところです。

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III. 垂直統合とシリコン市場の新たな機会

テクノロジ市場における垂直統合は、シリコン・デバイスを構築するためのプラットフォーム・アプローチを促進します。今日のシリコンの新たな機会としてSoCプラットフォーム・デザインを基にした複雑なデジタル、アナログ、メモリがあります。このようなSoCプラットフォームは、常に性能、ストレージ、エネルギー効率、接続性を追求しています。図2で示すとおり、新しいシリコン・システム、モバイル、クラウド・コンピューティング、一般家電に対する需要を促進する3つの大きなテクノロジ市場機会があります。
 
モバイル製品は依然として家電やユーザ作成ビデオに急激に浸透し続けており、優れたグラフィック性能が重要視されています。一般的なモバイルの使用を見ると、YouTubeだけでも平均、既存のモバイル容量の約20%を占めます。また、携帯ゲームや携帯機器によるビデオの登場により、高解像度に対する需要が高まっています。多くのタブレットやスマートフォンの画質は720pから高密度な1080pです。また、携帯製品は画像性能だけでなく、より高度な接続性も必要になっています。Wi-Fiや3G/4Gセルラーによるデータ・ネットワーク通信は、現在のハイエンド携帯機器全てに対して必須となっています。現在、ほとんどの携帯機器は単独のサーバやPCと接続しており、常時ユーザ情報に接続し、ファイルを共有したり、データをダウンロードすることができます。このような、高度な画像性能や接続性を実現するには、複数のCPU、GPU、USB、無線モデム、マルチメディア処理機能を統合したSoCプラットフォームが必要になります。これらのSoCプラットフォームは性能と消費電力を最適化するために、マルチコア・プロセッサとシンメトリックなマルチプロセッシング機能を使用しています。
 
クラウド・コンピューティングは、コンピュータ・リソースの設定を行う上で、便利なオンデマンド・サービスです。クラウド・コンピューティングは企業やサービス・プロバイダのネットワークで急速に拡大しており、高性能な高速ネットワーク処理SoCプラットフォーム(NPSP)を促進しています。クラウド・コンピューティングに対するNPSPは、従来のx86ベースのコンピュート・サブシステムで動作しなければなりません。このマルチコア、異種環境を利用するアプローチにより、NPSPが高速ネットワークやデータセンタのセキュリティを管理し、x86サブシステムがアプリケーション・ソフトウェアを駆動することができます。高速ネットワークの管理とは、高速かつ効率的なマルチスレッド・アーキテクチャやパケット処理に対する高性能ダブル・データレート(DDR)メモリ・サブシステムとの接続が可能なネットワーク処理を表しています。さらに、ネットワークを処理するプラットフォームは、セルラーネットワークやワイヤレス機器を通じてクラウド・コンピューティング・インフラストラクチャを使用できなくてはなりません。

一般家電は、携帯機器はもちろんハイエンドのコンピュータ・ゲーム機器、高解像度テレビ、デジタル・カメラ、メディア・プレイヤ、最先端家電等、非常に多岐に渡っています。繰り返しますが、現在の家電製品には、高度な性能や接続性が求められています。モバイル市場と同様に、家電市場でも垂直統合によって新たなシリコン・デザインが求められています。このような新しいシリコンSoCプラットフォームは、接続性、性能、面積、エネルギー効率のバランスをとると同時に、高解像度ビデオ処理に対応できなければなりません。

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IV. 垂直統合と新しいシリコン設計課題

新たなシリコン・デバイスは、単一シリコン・プラットフォームに高性能デジタル、アナログ、メモリ、RF回路を混載させることにより、垂直統合を促進することができます。このようなプラットフォームは複雑であるため、28nmのような最先端プロセスノードで生成された構成要素を統合する必要があります。シリコン・プラットフォームの高度なデザインフローを図3に示します。様々なシリコン・デバイスに対する統合デザインフローの要となるのは、ミックスドシグナル・デザインのフルチップ・シミュレーション、IPキャラクタライゼーション、デジタル・サインオフ、デジタル・デザイン・インプリメンテーションで、これらは全て統合データモデル上で操作できなければなりません。
 
ミックスドシグナル・デザインは規模が拡大し、より複雑になっているため、正確な機能検証が非常に困難になっています。既存のシミュレーション・ソリューションでは、一度完全な寄生抽出が実行されると検証は事実上不可能になります。従来のSPICEシミュレータで大規模なアナログ/デジタル・ミックスドシグナル・デザインのフルチップ・シミュレーションを行う場合、実行時間、容量が問題になります。SPICEレベルの精度を維持すると同時にフルチップ・キャパシティを処理できる高速マルチCPU回路シミュレータが必要です。このような回路シミュレーション・ツールは、ワイヤレスSoCやフルチップ・メモリ・デザインのような超大規模かつ複雑なシステム(500万以上のトランジスタ搭載)でシリコン精度の結果を出さなければなりません。垂直統合型シリコン・デバイスのIPキャラクタライゼーションは、設計マージンを増やさないためにも、スタンダードセル、複雑なI/O、組み込みメモリ・モデルを処理できなければなりません。IPキャラクタライゼーションは、シリコンの予測性と設計の生産性を向上させるために、組み込みマルチCPU回路シミュレーション と、スタンダードセル、I/O、メモリ・モデルが必要になります。 

既存の大規模統合SoCデザインには数100に及ぶオペレーション・モードと解析コーナーがあり、一般的にインプリメンテーション・ツールとサインオフ・ツール間の精度はあまり高くありません。垂直型シリコン向けのサインオフ・ソリューションは、効率的にハードウェア・リソースを利用し、複数のタイミング、抽出、フィジカル検証シナリオを処理する必要があります。このようなデザイン・モードや解析コーナーを並列処理することが、これらサインオフ・ソリューションには必須です。タイミング、抽出、フィジカル検証ソリューションは、統合プラットフォームとして共に動作し、デジタル・サインオフ全体のTATを高速化し、精度を向上させる必要があります。タイミングと抽出は、SPICE、3Dフィールド・ソルバそれぞれと、コリレートしていなければなりません。

デザイン・インプリメンテーション・ソリューションは、大規模化するアナログ、デジタルSoCプラットフォーム・デザインを処理できる容量が必要になります。デザイン・インプリメンテーション・ソフトウェアは、クロックツリー・デザイン、タイミング・ドリブン配置シナリオ、配線密度、アナログ・シェイプベース配線、メモリ配線、複数のシナリオの配置配線の最適化を処理できなければなりません。最適化の精度を向上し、配置配線のインプリメンテーション回数を削減するために、ますます「sign-off in the loop」が必要になります。消費電力条件の厳しい市場に、多くのSoCプラットフォームが登場しています。最新のデザイン・インプリメンテーション・ソリューションは、ダイナミックな動作電圧・周波数のスケーリング(DVFS)、複数のボルテージ・アイランドを処理し、クリックゲーテリング・テクノロジで消費電力を最適化できなければなりません。 

デザインフローの各工程、フルチップ・シミュレーション、IPキャラクタライゼーション、デジタル・サインオフ、デザイン・インプリメンテーションは、図3に示すとおり、単一アプリケーション・プロセッサのSoCデザインに対応していなければなりません。このデザインには、複数のARMコア、3D画像処理機能、オーディオ/ビデオDSP、マルチメディア/画像処理機能、USB、I/O、複雑なメモリ・サブシステムが搭載されています。これは一般的な垂直統合型のモバイル機器や家電製品に使用されているタイプのアプリケーション・プロセッサです。 

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V. まとめ

どのテクノロジ市場も、エンドカスタマにより差別化された製品を提供しようと進化しています。製品の差別化には、サプライヤがハードウェア/ソフトウェアの開発や統合を改善する垂直統合期間があります。具体的には、垂直統合アプローチでハードウェアの統合が進むにつれ、単一チップのSoCプラットフォームにデジタル、アナログ/ミックスドシグナル・システムが統合されるようになります。このような単一チップのシリコン・プラットフォームは、テクノロジ市場で成功を収めるために不可欠な性能、消費電力、面積条件に対応していなければなりません。この複雑なシリコン・プラットフォームは、モバイル、クラウド・コンピューティング、家電といった重要な市場機会を獲得するために、現在重要になっています。今日のテクノロジ市場で成功を収めるために、電子設計ソフトウェアを提供する会社は、このような複雑なシリコン・プラットフォームを設計できる統合されたフルチップ・ソリューションを提供しなければならないのです。


本記事に関するお問い合わせ先:
マグマ・デザイン・オートメーション株式会社
Business Developement
ディレクタ 石神英明
Email: ishigami@magma-da.com
Tel: 045-470-4533 (代表)
 

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